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仙台高等裁判所秋田支部 昭和44年(ラ)3号 決定 1969年4月16日

抗告人

株式会社山形相互銀行

代理人

松浦松次郎

主文

原決定を取り消す。

本件を山形地方裁判所酒田支部に差し戻す。

理由

<前略>

会社更生法二三四条一項の規定は、更生計画案が関係人のある組の反対により可決されなかつた場合に、直ちに計画案を不成立に終らせることは適当でないので、裁判所が同項各号所定のいずれかの方法によりその組の者の権利を計画において実質的に保護する措置を講じたうえ、計画案を認可できることとして、権利者を保護しつつ計画案の成立を容易ならしめようとしたものであり、右の権利保護方法として、同項一号から三号に具体的な措置を掲げるとともに、同項四号において「その他各号に準じて公正、衡平に権利者を保護すること」と定めている。しかして、右一号ないし三号の権利保護措置を更生担保権者についてみると一号においては、担保権者の権利を実質的に変更せずに存続させること、二号においては、事実上担保権を実行したのと同様の結果を収めさせること、三号においては、担保権の取引価額を支払うことをそれぞれ規定し、いずれも会社更生手続上の公正、衡平の理念にもとづく優先権尊重の建前から、不同意の更生担保権者に対してあたかも更生手続なかりしとほぼ同様の別徐権的地位ないし満足を与えるべきものとしている。したがつて、かような趣旨からすると、同項四号により右各号以外の方法によつて更生担保権者の保護措置を講ずる場合においても、これら各号の方法によつた場合と実質的に大差のない程度の保護を与えるべきことは当然であつて、同号の「前各号に準じて公正、衡平に権利者を保護すること」というのはこのような措置をとることを意味するものと解すべきである。のみならず、同法二三四条二項及び一七二条三号によれば、計画案について更生担保権者の同意を得られないことが明らかな場合に、管財人が裁判所の許可を得たうえ、あらかじめ二三四条一項各号の方法による権利保護措置を定めて計画案を作成したときは、右担保権者は議決権を行使できないものとされているが、この規定は、不同意を予想される担保権者が右各号によつて前記の別除権的保護を与えられる結果、計画案につき実質的に利害関係を有しなくなることを前提としたものであつて、右四号による場合においてのみ、担保権者にかかる別除権的保護を与えずして議決権を失わしめる趣旨であるとはとうてい解されない。もとより会社更生手続における「公正、衡平」の概念はきわめて弾力的であり、更生担保権者の優先的地位といえども絶対的なものではないから、前記四号による措置として、つねに、当初の計画案に定められた不同意の更生担保権者の権利に対する制約を一切排除しなければならないとまで厳格に解する必要はなく、たとえば更生担保権の分割弁済計画を一部変更したのみで認可することも絶対に許されないわけではないけれども、前記のとおり、かかる変更をもつて同号の要件をみたすといいうるためには、その弁済期限の長短、弁済額等諸般の事情からみて、変更後の計画案に定められた更生担保権者に対する保護の内容が全体として前記一号ないし三号の保護方法をとつた場合と実質的にほぼ同じ程度のものであることを要し、もしそのような保護措置を講ずると計画に重大な支障をきたす場合には、更生手続を廃止するほかないものと解するのが相当である。

そこで、本件についてみると、記録によれば次のような事実を認めることができる。

(一)  本件更生手続開始決定後である昭和四三年七月三一日現在における更生会社の財産状態は、管財人が、会社資産を事業の用に必要なものと不必要なものとして売却予定のものとに分け、前者については事業継続を前提とし、後者については処分を前提として評価したところによると、資産合計一億八、三〇一万一、八五八円(うち売却予定資産額六、二九七万四、五〇〇円)に対し、負債合計は二億四、二三一万三、八九五円で、結局五、九〇〇万円余の債務超過となること(抗告人は、右資産の評価が不当に水増しされている旨主張するが、記録を検討してもそのようには認められない。)

(二)  右更生会社の資産のうち、現金、未収金、仮払金等を除く主なものは、土地三筆四、九七〇万五、〇〇〇円(うち売却予定二筆二、六七〇万五、〇〇〇円)、建物一三棟三、一〇四万六、〇〇〇円(うち売却予定五棟七七〇万円)、機械設備五、二七六万三、〇〇〇円(うち売却予定二、二五八万六、〇〇〇円)、船舶四七〇万円、車両及び運搬具一、五六二円(うち売却予定四九三万五、〇〇〇円)、工具器具及び備品三二三万九、〇〇〇円(うち売却予定一〇四万八、五〇〇円)等合計約一億五、〇〇〇万円余であるが、抗告人はそのほとんど全部についてすでに弁済期の到来した先順位の根抵当権又は譲渡担保権を有すること。

(三)  本件更生手続において確定された債権額は、

更生担保権 一億一、九三八万五、八三四円(52.6パーセント)

優先更生債権 三三五万四、八九九円(1.5パーセント)

一般更生債権 一億〇、四〇二万七、一八六円(45.9パーセント)

合計 二億二、六七六万七、九一九円

右更生担保権の内訳は、

(1)  抗告人 一億〇、四一二万二、四三五円

元本 八、八九四万一、九七一円

損害金 一、五一八万〇、四六四円

(但し昭和四三年三月二七日から同四四年三月二六日までのもの)

(2)  山形県信用保証協会 七二六万八、一九九円

元本 七二五万七、二五〇円

利息損害金 一万〇、九四九円

(3)  信成合資会社 七九九万五、二〇〇円

元本 七六〇万円

利息損害金 三九万五、二〇〇円であり、更生担保権のうち抗告人の債権額が占める割合は約八七パーセントに達すること。

(四)  本件変更前の計画案における右債権処理に関する条項の概要は次のとおりであつたこと

(1)  更生担保権について

(イ) 抗告人

その確定債権全額一億〇、四一二万二、四三五円を次のように分割弁済する(かつこ内の数字は資産売却による弁済額を示す)

昭和四五年一月 二、二三一万一、二三五円(一、五九〇万〇、五〇〇円)

同 四六年一月 一、九六九万五、二〇〇円(一、三二八五万五、〇〇〇円)

同 四七年一月及び同四八年一月

各六四一万〇、二〇〇円

同 四九年一月 三、六四七万五、二〇〇円(三、〇〇六万五、〇〇〇円)

同 五〇年一月及び同五一年一月

各六四一万〇、二〇〇円

抗告人が従来更生会社財産の上に有した抵当権、譲渡担保権は計画案認可後も存続するものとするが、譲渡担保権の目的となつている売却予定資産を更生会社において売却処分することについては同意する(なお、この同意に関する条項は、譲渡担保権の目的物が形式上譲渡担保権者の所有となつているため、これを更生会社が売却処分するにつき担保権者が同意することを定めたものであつて、抗告人主張のように更生会社が売却処分に同意することを定めたものでないことは条項の文言上明らかである。)

(ロ) 山形県信用保証協会

その確定債権全額七二六万八、一九九円を昭和四五年から同五一年までの間毎年一月三一日に各一〇三万八、三〇〇円宛分割弁済する。

同協定が従来更生会社財産の上に有した抵当権は前同様存続するものとするが、売却不動産に対する抵当権は、当該物件が処分され抗告人の抵当権が消滅したときに消滅する。

(ハ) 信成合資会社

その確定債権全額七九九万五、二〇〇円を昭和四五年から同五四年までの間毎年一月三一日に各七九万九、五二〇円宛分割弁済する。

同会社が従来更生会社財産の上に有した抵当権については前記(ロ)と同様とする。

(2)  優先的更生債権(租税公課)について

更生手続開始決定後の利子税、延滞金及び延滞加算金は免除し、その余の元本、利子税、延滞金、督促手数料合計三三五万四、八九九円を昭和四五年一月及び同四六年一月に分割弁済する。

(3)  一般更生債権、劣後的更生債権及び未確定更生債権について

劣後的更生債権及び更生手続開始決定前の利息、損害金は免除する。

その余の債権中三〇万円未満のものについては六〇パーセント、三〇万円以上五〇万円未満のものについては五〇パーセント、五〇万円以上のものについては四〇パーセントを免除し、右権利変更後の債権を、元本一〇万円未満のものは昭和四五年一月に支払い、一〇万円以上三〇万円未満のものは昭和四五年一月に支払い、一〇万円以上三〇万円未満のものは昭和四五年一月から同四七年一月まで、三〇万円以上五〇万円未満のものは同四五年一月から同四九年一月まで、五〇万円未満のものは同四五年一月からは同四九年一月まで、五〇万円以上のものは同四五年一月から同五四年一月まで毎年一月三一日にそれぞれ分割弁済する。

(五)  原裁判所は、右当初の計画案が更生担保権者の組において否決されたので、抗告人に対する前記弁済計画を一部変更し、昭和四九年一月の弁済予定額三、六四七万五、二〇〇円中資産売却による弁済額三、〇〇六万五、〇〇〇円の弁済時期を二年繰上げて、昭和四七年一月に合計三、六四七万五、二〇〇円を弁済するものとした結果(それに伴い右売却予定資産の売却時期も同様に二年繰上げられた)、抗告人の確定債権の約七五パーセントに当る七、八四八万一、六三五円が認可後三年で弁済されることになつたこと。

(六)  しかしながら、抗告人が約一億五、〇〇〇万円余にのぼる更生会社の不動産、動産のほとんど全部に弁済期の到来した先順位の担保権を有することは前記のとおりであり、これら担保権の目的物全部を売却を前提として個別に評価した場合でも、なお、抗告人の確定債権額一億〇、四一二万二、四三五円を下廻るものとは考えられないので、抗告人について二三四条一項一号の保護措置を講じた場合はもとより、同項二号又は三号の方法によつた場合においても、直ちに右債権全額の弁済を受けうることがほぼ確実であること。

以上のような事実を認めることができる。

右認定の事実によれば、本件計画案においては、抗告人が他の権利者に比して相当に優遇され、特に原裁判所が当初の弁済計画の一部を変更して昭和四七年一月の弁済予定額を増額したことにより認可後約三年で確定債権の約七五パーセントの弁済を受けるという格段に有利な取扱いを受けることとなつたが、右債権全額の完済までには七年の長期を要するのみならず、前記のように、抗告人は会社財産につき強力かつ確実な担保権を有する関係上、二三四条一項一号ないし三号のいずれの方法をとつた場合でも直ちに確定債権全額の満足を受けうべき地位にあるものであり、しかも、その債権額が一億円余の巨額であるため、弁済時期、弁済額の如何により抗告人の利害に重大な違いを生ずることを考えると、これを七年間の分割弁済により三年目にその約七五パーセントを支払うという程度の措置をもつてしては、抗告人の地位が右一号ないし三号の方法によつて保護を受ける場合と比較して著しく不利益であり、とうていこれら各号の場合と実質的に大差のない権利保護を受けたものであるということはできない。

してみると、さきに述べたところにより、原裁判所が同条一項四号によつてなした更生担保権者に対する権利保護措置はいまだ同号の要件をみたさないものというほかなく、他に同項一号ないし三号の措置が講じられていないことは明らかであるから、右の措置のみによつて本件計画案を認可した原決定は違法というべきである。

四、したがつて、原決定はこの点において取消しを免れないが、本件記録を精査検討しても、本件が計画案不同意により直ちに更生手続を廃止すべき場合にあたるものとはにわかに断じがたいところであり、前記説示の趣旨にしたがい他に相当な権利保護措置を定めて計画案を認可する余地がないかどうかを更に原裁判所において調査判断するのが相当である。なお、抗告人は、本件計画の遂行につき最も重要な役割を占めていた更生会社代表取締役鈴木五郎が死亡したことにより、計画の遂行が不能となつた旨主張し、記録によれば、原決定後である昭和四四年三月一四日右鈴木五郎が死亡した事実が認められるけれども、同人の死亡が本件計画の遂行にいかなる影響を及ぼすかについて記録上必ずしも明らかでないから、これについても前記の点とあわせて原裁判所において調査すべきものである。(羽染徳次 神田正夫 佐藤繁)

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